キーエンスの営業は、間違いなく強い。成果も出している。
だからこそ、多くの企業がこう考えます。
「キーエンスの営業を参考にすれば、自社の営業力も上がるのではないか」
「行動量管理やKPIを徹底すれば、成果は出るのではないか」
その発想自体は、自然です。私自身、営業現場にいた頃、何度もそう考えました。
しかし現実には、キーエンス流を導入しようとして、うまくいかなかった企業の方が圧倒的に多い。
なぜでしょうか。
それは、キーエンス型営業が成立するための「前提条件」が、多くの企業には存在していないからです。
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営業マンは、最初からその覚悟で入社していない
まず、最も大きな違いがあります。
それは、営業マン本人の前提です。
キーエンスの営業マンは、最初から「成果が出なければ生き残れない」世界に入る覚悟を持って入社しています。
・成果主義
・厳格な評価
・数字が出なければ居場所がなくなる
・代わりはいくらでもいる
その環境を理解したうえで、高い報酬と引き換えに、その世界を選んでいる。
一方、多くの一般企業の営業マンはどうでしょうか。
最初から、「毎日KPIで詰められ、成果が出なければ切られる」
そんな前提で入社している人は、ほとんどいません。
・成長したい
・成果を出したい
・評価されたい
・家族を支えたい
・長く働きたい
不安や迷いを抱えながらも、懸命に営業に向き合っているのが、普通の営業マンです。
この出発点の違いを無視したまま、「キーエンス流でやれ」と言ってもうまくいくはずがありません。
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高額報酬だけで、ロイヤリティは成り立たない時代
よく言われます。
「キーエンスは高い報酬を払っているから、営業マンが頑張るのだ」
確かに、それは一面の事実です。
しかし、今の時代、それだけでは続きません。
営業マンが長く力を発揮するためには、
・成長実感
・評価の納得感
・役割の意味づけ
・組織からの信頼
・働く理由への共感
こうした要素が不可欠です。
今で言うエンゲージメントです。
高額な報酬で一時的に引き留めることはできても、
それだけで人が持続的に力を出し続けることは難しい。
多くの企業が、
「成果主義を導入したが、営業が疲弊した」
「数字だけが残り、人が育たなかった」
という結果に終わる理由は、ここにあります。
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キーエンスは「人を信用しない」前提で設計されている
あまり語られませんが、ここは非常に重要なポイントです。
キーエンスの営業は、個人の善意や裁量を前提にしていません。
・どれだけ行動したか
・何を話したか
・どんな提案をしたか
・それは本当か
すべてが管理され、確認され、場合によっては「疑われる」前提で設計されています。
実際には、「本当にお客様を訪問し、そんな説明をしたのか」を顧客に確認することさえある。
このレベルの管理・統制・覚悟が、果たして自社にあるでしょうか。
営業マン数人を集めて、「今日からキーエンス流でいこう」、そう言って導入できるものではありません。
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そもそも、キーエンスに入社できる人材のレベルが違う
もう一つ、見落としてはいけない前提があります。
それは、キーエンスに入社できる人材そのもののレベルです。
私がオムロンに入社した1990年当時、正直に言えば、大学を出ていれば、キーエンスには比較的多くの人が入社できました。
当時は、オムロン、NEC、松下電器、ソニーといった企業に入れなかった人たちが、次の選択肢としてオムロンを選ぶ、そんな時代でもありました。
しかし、今は完全に逆転しています。
現在のキーエンスは、高学歴であることはもはや前提条件であり、それでも入社試験に合格することは簡単ではありません。
実際、キーエンスに入社できなかった人材が、オムロンに入社してくる、そんな時代になっています。
この事実が意味することは、非常に重い。
そもそも、どんな営業マンでも鍛えれば、キーエンスのような営業パフォーマンスを発揮できる、という考え方自体が、現実的ではないのです。
キーエンスの営業は、最初から選抜された、極めて優秀な人材を前提に設計されています。
だからこそ、あの営業スタイルが成立している。
さらに言えば、キーエンスの強さは営業マン個人だけではありません。
入社後の教育レベルも、極めて高い。
営業としての思考、行動、判断基準が、徹底的に鍛え込まれる仕組みが、会社として用意されています。
このような人材選抜と教育風土を持たない企業が、
「キーエンス出身のコンサルタントに頼めば」
「研修を受けさせれば」
キーエンスのような営業マンが生まれるかといえば、それはあまりにも無理があります。
営業マンだけを切り出して鍛えても、企業としての前提条件が違う以上、同じ結果が出るはずがないのです。
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「やり方」だけを切り取ることの危うさ
多くの企業が失敗する理由は、ここにあります。
・KPIだけを導入する
・行動量だけを増やす
・管理だけを厳しくする
しかし、
・採用の思想
・評価制度
・育成方針
・組織文化
・経営の覚悟
こうした土台が伴っていない。
結果として起きるのは、
・数字合わせ
・無意味な訪問
・顧客軽視
・現場の疲弊
・離職
「営業力を高めるつもりが、営業を壊してしまった」
そんな現場を、私は何度も見てきました。
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では、普通の企業はどうすればいいのか
ここまで読むと、こう思われるかもしれません。
「では、普通の企業はどうすればいいのか」
「キーエンスに対抗する術はないのか」
あります。
ただし、それは、キーエンスの営業を真似ることではありません。
次回は、
・なぜ普通の営業マンでも成果を出せるのか
・営業マンを“追い込む”のではなく“支える”とはどういうことか
・個人ではなく、組織として営業するとは何か
その考え方を、もう一段深く掘り下げていきます。
営業を「個人技」から解放するために、何が必要なのか。
次回、
「普通の営業マンが成果を出すために、組織が果たすべき役割」について、お話しします。
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